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ピアノは気軽に動かせない上に、どこに置くかで調子や寿命がまったく変わってしまいます。

2020/9/28 掲載
 

基本的な考え方


ピアノは24時間365日その場所にずっとあり、環境の影響を受け続けています。置き場所がピアノの状態の6割以上を占めていると言っても過言ではありません。ピアノには「こういうところに置くと良くなる」と言う場所は無く「置いてはいけない場所」をどれだけ避けて負担をかけないかが重要です。
 
ピアノに良くない場所は大きく分けて2つ。
 
1.温度、湿度の変化が大きい場所
 
2.メンテナンスがしづらい場所
 

防音や音響も含めてしまうと複雑になりすぎるので、今回の記事ではあくまでピアノへの外的な影響についてのみ考えていきます。

 

1.温度、湿度の変化が大きい場所とは


ピアノにはとにかく変化を与えないことが重要です。温度、湿度の変化が大きいと調律がすぐ狂ったり、故障が頻発したり、寿命も一気に縮まってしまいます。
“ここはできれば避けて欲しい”代表的な場所とやむを得ない場合の対策を紹介します。
 


【危険度5 ★★★★★】
 
直射日光が当たる部屋
ピアノの一番の大敵です。重要なのは「直射日光が当たる場所」だけではなく「直射日光が当たる部屋」も良くないこと。直接ピアノに当たらなくても、日当たりの良い部屋は季節、時間帯、天気によって大きく温度湿度が変化し、コントロールもしづらいので避けたい場所です。
対策:遮熱カーテンを使用する
 


【危険度4 ★★★★】
 
床暖房の部屋
床からの熱で過乾燥になったり音の狂いが大きくなります。特にアップライトピアノは床に近く、底は薄い板で弱いため影響を受けやすいです。専用ボードの上に置くことである程度は和らげることができますが、それでも影響は大きいです。
対策:床暖房対策ボードを敷く
 
薪ストーブがある部屋
熱で過乾燥になりやすいことに加え、乾燥対策として薪ストーブの上にやかんを置いて沸騰させているケースも多く、一時的な多湿と過乾燥ダブルで影響を受けてしまうことがあります。ただ薪ストーブのある部屋は比較的広いことが多いので、離して置けばだいぶ影響は和らぎます。
対策:なるべく離す(特に直接熱の届く方向から外す)。乾燥対策は気化式の加湿器で常時行う。熱を防ぐパーテーションを置く 。
 
冷蔵庫に密着している 
冷蔵庫や電子レンジなどは熱を発するのでピアノが暖められてしまいます。
対策:50cm以上は離して置く
 


 危険度3 ★★★
 
部屋干しをする部屋
湿気の影響はもちろん、洗濯物が乾くと湿度ががくっと下がるのもピアノに負担になります。
対策:除湿機をつかって湿度差を少なくする
  
寝室
特にご家族が集まって寝る部屋では、寝ている間に体から発する水分で湿度がかなり上がるようです。また布団の綿埃が溜まりやすくもなります。
対策:除湿機をつかって湿度差を少なくする
 


危険度2 ★★
 
エアコンの風が当たる場所
直接風が当たると急激に冷やされたり暖まったり、乾燥しやすくなります。家庭用のものは風向きを変えることや急にフルパワーで使わないことである程度影響を減らすことはできます。天井埋め込み式の業務用のものは影響が大きいため近くは避けたほうが無難です。
対策:温度の調整(急激に冷やさない、暖めない)風向きの調整。風よけルーバーを取り付ける 
 
エアコンがない部屋
逆にエアコンがない部屋は暑くなりすぎたり、演奏で汗をかいて急激に湿度が上がったりします。暑い季節は弾いていられないのでピアノから遠ざかってしまうという話もよく聞きます。
対策:エアコンを取り付ける
 
キッチンの近く 
料理をしているときとしていないときで湿度が大きく変わります。また、湯気に乗って油汚れが内部にも少しずつ蓄積されてしまい、即効性の影響というよりは長年かけての影響が大きいです。
対策:ピアノカバーをかける
 
窓の近く
温度変化や結露の影響を受けるため、特にアップライトピアノの背面が窓にかかるような位置は避けるか、カーテンでしっかり塞いでください。
対策:カーテンをかける
 


1階 危険度2〜4 ★★〜★★★★
これは場合によりますが、古い家で気密性が低くまわりに緑が多い場合や、基礎が布基礎の場合、外や床下からの湿気の影響を受けることがあります。
対策:除湿機をつかって湿度を下げる
 
屋根裏の無い最上階危険度3 ★★★
屋根裏空間が無い建物の最上階は晴れている日に暑くなりやすく、日当たりが良い部屋と同じような影響が心配です。もちろん屋根裏部屋自体もおすすめしません。
対策:暑い季節はエアコンを常時使用する。サーキュレーターで空気を循環させる
 
 
他にも天窓や全館空調、蓄熱暖房、ガス暖房...など家には色々な設備がありますが、共通して考える必要があるのはその場所が「24時間365日一定で快適な環境かどうか」です。もしいつ入っても常に快適に感じる場所であればピアノにとっても問題ない環境なはずです。そのためにはコントロールのしやすさも重要で、広すぎる部屋は加湿器や除湿機の効きが悪く管理が難しいと言うデメリットがあります。
 
 

イレギュラーな危険がある場所もあります


地震、火事、浸水などの災害以外でのピアノに関するイレギュラーなトラブルはほとんどが水です。雨漏りや窓を閉め忘れて雨が吹きこんでしまうなど、起こらなければダメージはゼロですが一度でも起こってしまうと大ダメージを受けるリスクがあります。こういったことはほとんど起こらなそうに感じますが、どの家庭でも起こりやすいトラブルがあります。
 
危険度 ??(トラブルが起こった場合は∞)
 
エアコンの真下
エアコンの構造上、水漏れが起こる可能性があります。水を外に排出するドレンホース内に油汚れ、虫の死骸、ゴミなどが詰まると排出されるはずの水が戻ってきてしまい、送風口から水が出てくるトラブルは割とよくあるようです。その場合エアコンの真下にピアノがあると水をかぶってしまい大変です。
対策:ドレンホースのクリーニング(業者)を定期的に行う。急激に低い温度で運転をしない。
 
 

2.メンテナンスがしづらい場所とは


ピアノのメンテナンスをするには周りにある程度のスペースが必要で、余裕がないと100%のメンテナンスが受けられなかったり、調律のたびに余計な費用がかかってしまうこともあります。
 

場合によっては特定の作業が全くできないケースも

 


グランドピアノの前(演奏者の背中側)が狭い
グランドピアノのメンテナンスは“アクション”という内部の部品を常に出し入れして行いますが、鍵盤から後ろの壁までの余裕が無いとアクションを出すことができず、内部のメンテナンスが全くできなくなってしまいます。最低でも1mは必要です。
 


グランドピアノの屋根が開かない
低い照明や天井がせり出しているなどで屋根が開けられない場合、掃除や弦の張り替えがしづらかったりできないことがあります。屋根を全開にした場合の一番高い部分は床から2m弱ですが、開ける動線上にもぶつかるものがないか確認してください。 

 

 


アップライトピアノの上に棚がある
アップライトピアノはメンテナンスの際に上の屋根を開ける必要があります。開けたときにぶつかる位置に棚があると少しの作業でもピアノを前に出して戻して...が必要になってしまいます。ピアノによって屋根の開き方が違うので必要な高さは変わりますが、止むを得ない場合でもピアノ上部から40cmのスペースはあると安心です。

 

 


ピアノの右側がすぐ壁や家具
高音部の調律がしづらくなるので高音の調律の精度・持ちが少し悪くなります。ピアノの右側は人が入れるくらい(40cmくらい)の余裕がある方が良いです。グランドピアノの場合はスペースがないと普段の屋根の開け閉めも重くて大変なので、その意味でもできれば余裕を持たせてください。左側はあまり関係ありませんが、全く余裕が無いとインシュレーターを取り付けるためにピアノを持ち上げる際や、少しピアノの角度を変える必要がでたときに支障がある場合もありますので、余裕を持たせるに越したことはありません。
 
 

まとめ


「結局ピアノはどの部屋に置いたら良い?」という質問に一言で答えるならば、2階以上の北向きで、エアコンがついているピアノ専用の個室と言うことになります。除湿機をしっかり使えば、外の環境が関係ない地下室も意外と悪くないです。
 
もちろん場所の影響は程度によって違いますし、置くピアノの耐久度によっても変わります。そこに防音の問題や音響的な良し悪し、生活スタイルに合っているかなど細かい要素が絡み合ってくるため、それぞれの事情ごとに慎重に置き場所を考える必要があります。
 
ピアノの置き場所を改めて考えるタイミングは、ピアノを買ったとき、引っ越し、新築、生活スタイルが変わった、ご実家からの移動などだと思います。さてピアノを置こうとなったときに全ての条件を満たす場所を用意するのはなかなか難しく、たいていの場合はいくつかの限られた置き場所の選択肢の中からなにを重視するかで選ぶことになります。逆にこれから何も制約がなくピアノ部屋を作れるような恵まれたケースでは、ピアノに理想的な部屋を追求するのも良いかもしれません。
 
調律師はいろいろな場所にあるピアノを見ていますので、置き場所についてもご相談ください。

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